

真岡市で宝暦4年(1754年)創業という、栃木県内でも屈指の歴史を持つ辻善兵衛商店。その名を冠した「辻善兵衛」は、鬼怒川水系の伏流軟水で仕込まれ、やわらかな口当たりと爽やかなキレで知られる。今回は雄町を使った純米吟醸を取り上げる。
雄町ならではのふくよかさが、この酒の主役だ。精米歩合56%とあえて磨きすぎず、米由来の厚みのある旨みを残している。香りは控えめで、洋梨のような淡い果実感の奥に穀物の甘い香りがのぞく。吟醸でありながら香り先行ではなく、あくまで味で勝負する構成。
含むと、雄町特有のボリュームのある甘旨味が口中に広がる。日本酒度+2・酸度1.6前後と、数値上は中庸だが、体感はやや旨口寄り。酸がしっかり下支えするので、ふくらんだ味わいが間延びせず、後半でほどよく引き締まる。冷やでも良いが、人肌燗にすると旨みがいっそう開く。
その厚みは、味の濃い料理とよく噛み合う。豚の角煮、うなぎの蒲焼き、から揚げといった脂や甘辛いタレを伴う皿に対して、酒のコクが対等に渡り合う。淡白な刺身よりも、こってりした主菜に合わせたい。
四合瓶で1,700円前後。IWCの純米吟醸部門で評価された実績もある蔵だが、価格は決して高くない。雄町らしい旨口の純米吟醸を探している人には、栃木の隠れた実力派として推せる一本。