

矢板市の小さな蔵、富川酒造店が醸す「忠愛」。大正2年(1913年)創業で、もとは精米業を営んでいた初代が酒蔵を譲り受けて酒造りに入ったという経歴を持つ。「地酒は地元の食文化」という考えを掲げ、地域に根ざした酒を造り続けている蔵だ。富美川と並ぶ代表銘柄が、この忠愛にあたる。
今回の特別純米は五百万石を使った一本。香りはおだやかで、吟醸香を主張するタイプではない。あくまで食卓に寄り添う食中酒として設計されており、グラスからは控えめな米の香りがふわりと立つ程度。
味わいは、五百万石らしい軽快さを土台に、特別純米ならではの落ち着いた旨みがのる。日本酒度+3・酸度1.5あたりの構成で、含み口はやわらかく、後口はすっと辛口に切れていく。中取り(もろみの中間部分)を意識した銘柄も展開している蔵だけあって、雑味の少ない澄んだ味筋が印象に残る。冷やよりも、燗にしたときに本領を発揮する燗向きの酒という見立て。
ぬる燗から熱燗まで温度の許容範囲が広く、焼き魚、肉じゃが、おでんといった日常のおかずに自然となじむ。派手さはないが、毎晩の晩酌で飽きずに付き合える安定感がある。
四合瓶で1,400円前後と価格も手頃。栃木の小蔵が地元の食卓のために造る、実直な食中酒。流通は限られるが、見かけたら一度燗で試してほしい。