

来福(らいふく)は、茨城県筑西市・来福酒造の代表銘柄。1716年(享保元年)創業のこの蔵は、自然界の花から採取した「花酵母」を使い分けることで知られ、なでしこ・つるばら・ベゴニア・イチゴなど十数種を仕込みに使い分ける。今回向き合った純米吟醸 山田錦は、東京農業大学が分離した「月下美人(ゲッカビジン)」の花酵母を用いた、来福の花酵母路線を象徴する一本。グラスに注ぐと淡くクリアな色合いで、いかにも端正な吟醸酒という佇まいから始まる。
香りは、強すぎず控えめに整えられた華やかさ。白桃やリンゴを思わせる果実の香りに、花酵母由来とおぼしき軽やかでフローラルなニュアンスが重なる。獺祭や而今のような押し出しの強い吟醸香とは方向性が違い、鼻に近づけてようやくふくらむ、上品で素直な立ち香。食事を邪魔しないバランスに振った造りだと感じる。
口に含むと、果実を思わせるやさしい甘みがふわりと広がり、山田錦らしいきれいな旨みが続く。日本酒度+2・酸度1.5(蔵元公表値)という数字どおり、甘さと酸のバランスが良く、後口はすっとキレていく。温度帯は冷酒(8〜12℃)が最も香りと甘みが整って感じられた。常温に近づけると甘みの輪郭がややぼやけるので、冷たい状態をキープして飲むのが良い。燗にして個性を膨らませるタイプではなく、冷やして香りと甘みを楽しむ純米吟醸という印象。
ペアリングは、白身魚の刺身、鶏の塩焼き、出汁巻き卵、塩味の効いた前菜あたりが好相性。香りと甘みが穏やかなので和食の食中酒として無理がなく、淡い味付けの料理を引き立てる。一方で、脂の強い肉料理や香りの濃い料理に合わせると、せっかくの繊細な甘みが押し負けやすい。あくまで「料理に寄り添う側」の酒として設計されていると見るのが妥当。
価格は四合瓶(720ml)で実勢2,000〜2,500円ほど。花酵母という個性的な切り口を持ちながら、日常で開けやすい価格に収まっているのが来福らしさだと編集部としては受け止めている。派手さで勝負する銘柄ではないが、茨城・来福の花酵母仕込みの世界観を、手の届く範囲で知るための基準として勧められる一本。