

茨城・結城の蔵元「武勇(ぶゆう)」の辛口純米酒を編集部で開けてみた。武勇は元治元年(1864年)創業、結城紬で知られる城下町に蔵を構え、登録有形文化財に指定された建物群で今も酒を醸す。看板の純米酒は、酒名から想像できるとおり旨みとキレを骨太に据えた食中酒で、派手な吟醸香で勝負するタイプとは対極にある一本だ。山田錦・五百万石を精米歩合60%で仕込んだ、いかにも日常の食卓向きの造りである。
グラスに注ぐと、わずかに黄味を帯びた淡い色合い。香りは控えめで、吟醸香のような華やかさはほとんど立たず、炊いた米や蒸し米を思わせる穏やかな穀物香が中心だ。鼻を近づけてようやく輪郭がわかる程度で、香りで主張しないぶん料理の匂いをまったく邪魔しない。食中に徹した設計だと一口飲む前から伝わってくる。
味わいはまず米の旨みが舌に乗り、そこへ酸度1.7のしっかりした酸がすっと通って一気に引き締める。日本酒度+2の表記以上に、実飲ではキレの鋭さが際立つ辛口の印象だ。重さや甘さを残さず後口はシャープに切れ、次の一口、次の一箸を呼ぶ。冷酒(10〜13℃)では酸とキレが立ち、ぬる燗〜熱燗(45〜55℃)に振ると米の旨みがふくらんで丸くなる。燗にして本領を発揮するタイプで、温度帯の許容範囲が広いのは家飲みで扱いやすい長所だ。
合わせる料理は、味付けのある和食の総菜と相性が良い。焼き魚や根菜の煮物、鶏の唐揚げ、寒い季節のおでんといった日常の一皿によくなじむ。しっかりした酸が脂や醤油の濃さを流してくれるので、揚げ物や煮しめのような味の濃い料理に特に強い。繊細な白身の刺身を単体で主役にするより、旨みのある一皿に寄り添わせるほうが持ち味が出る。
価格は四合瓶でおおむね1,600〜1,900円台と、純米酒として手に取りやすい実勢。突出した華やかさで驚かせる酒ではないが、米の旨みと鋭い酸を芯に据えた等身大の辛口食中酒で、燗をつければ一段と表情を変える。結城の文化財蔵が長年磨いてきた食中設計を、日常の価格で味わえる常備向きの一本として勧められる。