

茨城県笠間市、慶応四年(1868年)創業の磯蔵酒造が「米の味と香りのする酒」を掲げて醸す定番が「稲里 純米」だ。蔵は地元産のひたち錦を100%使い、あえて精米を65%に留める。必要な成分を残し、不要な成分だけを削るという考え方の表れで、磨きすぎない造りに蔵の思想がそのまま出ている。グラスに注ぐと色はやや黄味がかり、最初のひと口から米の旨みがふくよかに立ち上がる、輪郭のしっかりした純米酒だった。
香りは控えめで、派手な吟醸香は立たない。鼻を近づけると、炊いた米や穀物を思わせる落ち着いた香りが奥にあり、わずかに栗のような甘い含み香が続く。立ち香で誘うより、口に含んでから鼻に抜ける含み香で個性を確かめる酒だと感じた。65%精米の素直な造りが、そのまま香りの素朴さにつながっている。
味わいは蔵が言う「トロッとした旨味」がまず舌に乗り、米のコクが厚く広がる。そのあと酸が骨格を引き締め、後口はキリッと切れていく。旨みをしっかり残しながら後味は重くならないので、一杯で終わらず次を誘う。冷酒では旨みと酸のバランスが整い、常温で旨みがふくらみ、ぬる燗(40〜45℃)にすると米のコクがいちだんと厚みを増す。蔵が常温〜温燗を勧めるとおり、温めて本領を発揮するタイプだ。
ペアリングは味付けのしっかりした和食が合う。煮物、たれの焼き鳥、焼き魚、もつ煮といった旨みのある料理に燗で寄り添うと、酒のコクと料理のコクが重なって互いを押し上げる。淡白な前菜を冷酒で合わせるより、火を入れた料理を温めの酒で迎える使い方が断然似合う、骨太な食中酒だ。
価格は四合瓶で1,700〜1,900円ほど(実勢)。磨きを抑えたぶん米の旨みをしっかり残した純米が、この価格で日常に置けるのはありがたい。華やかさで記憶に残るタイプではないが、米の旨みと燗の懐の深さを楽しみたい人に、腰を据えて付き合ってほしい一本だと感じた。