

姫路の灘菊酒造は明治43年創業、市街地にありながら今も自社で米を磨き続ける蔵だ。地元では蔵見学とレストランを併設した観光拠点としても知られているが、編集部として向き合いたいのは普段使いの「純米」のほう。山田錦を70%まで磨いた、構えずに飲める一本である。
注いでみると香りは控えめで、米の蒸れた甘い匂いがほのかに立つ程度。これは欠点ではなく、食卓に置く酒として正しい設計だと感じる。香りで主張しないぶん、料理の邪魔をしない。
口に含むと、まず米の旨みがふくらみ、続いてやや辛口寄りのキレが追いかけてくる。日本酒度+4前後らしい後口のドライさがあり、濃醇な旨みと辛さのバランスがちょうど中庸。冷やすと輪郭が締まり、ぬる燗にすると旨みが丸く開く。温度で二度楽しめるタイプだ。
合わせるなら、塩焼きの魚、おでん、肉じゃがといった出汁や塩味の家庭料理。脂の強い唐揚げに合わせても、辛口のキレが口中をリセットしてくれる。逆に繊細な刺身を主役にしたい席では、やや旨みが勝ちすぎる場面もある。
四合瓶で1,500円前後という価格は、毎日の晩酌に置いておける現実的なライン。派手さはないが、温度を変えながら長く付き合える灘の食中酒として、家飲みのローテーション候補に推せる。