

兵庫県宍粟市山崎町、播磨の山あいに蔵を構える山陽盃酒造の定番銘柄「播州一献 純米」。創業は1837年(天保8年)で、銘柄名は地元・播州への思いを込めたもの。地元播州産の酒米にこだわる蔵で、この純米酒には兵庫県産の兵庫夢錦を使い、精米歩合70%で仕込んでいる。米を削りすぎず、原料米の柔らかな味わいを残すという蔵の設計思想が、そのまま一杯に表れた銘柄だ。
グラスに注ぐと、ごくわずかに色味を帯びた、落ち着いた佇まい。香りは穏やかで派手さはなく、蒸し米や栗を思わせる穀物系のニュアンスがゆるやかに立つ。吟醸香で押すタイプではなく、抜栓直後から角の少ない、まろやかな立ち上がりだ。純米らしい素直な香り立ちで、食卓に置いても料理の邪魔をしない静かさがある。
含むと、兵庫夢錦由来の柔らかな旨みがふくらみ、後半はほどよい酸とともにすっきり引いていく。蔵がこの定番純米の数値を細かく公表していないため、編集部では飲み口から日本酒度+3前後、酸度1.5前後、アルコール分15度前後と推定している(同蔵の別の純米製品の表記を参考にした推定値で、正確な数値は要確認)。数字ほど辛さが前に出る印象はなく、旨みと酸の釣り合いが取れた、穏やかな食中向けの構成だ。
温度帯の幅が広いのも美点で、冷やでは旨みが引き締まり、ぬる燗(40〜45℃)に上げると米の旨みがふっくら膨らんで酸が丸くなる。熱燗まで上げても崩れにくく、温度を変えながら一晩付き合える持久力がある。香りの華やかさを求める一本ではないが、温度で表情が動くタイプを探している人には面白い銘柄だろう。
ペアリングは、出汁や塩気の効いた温かい和食が好相性。焼き魚、煮物、おでん、鶏の塩焼きといった皿に、この酒の旨みと酸が寄り添う。価格は四合瓶でおおむね1,400〜1,700円(実勢)。地元米を使った定番純米をこの価格で日常に置けるのはありがたい。派手さで惹きつけるより、燗にして料理と合わせるほどに評価が上がるタイプで、食中酒としての完成度を求める人に編集長が静かに推したい播磨の一本。