

三木市の稲見酒造「葵鶴」は、山田錦の最上産地として知られる特A地区を地元に抱える蔵だ。原料の足元の良さは兵庫の酒蔵の強みで、この「山田錦しずく」もその恩恵を素直に受けた純米吟醸である。京都・松尾大社の神紋「葵」と瑞鳥「鶴」を組み合わせた銘柄名にも、土地と神事への目配りがにじむ。
精米歩合50%まで磨いた山田錦らしく、グラスからは穏やかな吟醸香が立つ。リンゴや白い花を思わせる香りだが、華やかすぎず上品にまとまっているのが好印象。香り先行の派手な造りとは一線を画す。
含むと、なめらかな口当たりに続いて山田錦特有のふくよかな旨みが広がる。日本酒度+3前後、酸度1.7あたりの設計で、甘みと辛みのどちらにも振り切らない中庸。後半は酸が軽く効いてキレていき、余韻はすっきり収まる。冷酒(8〜12℃)で香りと旨みのバランスが最もよく出る。
ペアリングは、白身魚の刺身や出汁巻き卵、塩で食べる天ぷらなど、素材の味を活かした淡い料理。湯豆腐のような優しい一皿に寄り添わせると、酒の上品さがいっそう引き立つ。
四合瓶で2,000円台半ばと、純米吟醸としては手の届く価格帯。特A山田錦の地元産地が造る「ご当地らしい一本」として、贈答にも家飲みのご褒美にも収まりのよい銘柄だ。