

菊姫のラインのなかで、ひときわ異彩を放つのがこの「にごり酒」だ。山廃の濃醇辛口や気品ある大吟醸とは打って変わり、もろみを粗く漉した白濁の甘口で、寒い季節の定番として長年親しまれてきた。原料米は吉川産・特Aの山田錦を70%精米、日本酒度-6・酸度1.3とはっきり甘口に振った設計で、醸造アルコールを加えて飲み口を整えている。分類上は本醸造系のにごりにあたるが、菊姫らしい米の旨みがしっかり詰まっており、安価な甘いにごりとは一線を画す中身を持つ。
色合いは、もろみ由来の濁りで白く曇る。グラスを傾けると沈んだ滓が舞い、米の発酵香に乳酸系のほのかな酸のトーンが混じる。香り自体は穏やかで、派手さはない。瓶の底に滓が溜まっているので、軽く回してから注ぐと味のボリュームが増す。
味わいは、とろりと甘い。一口含むと米のたっぷりした甘みと滓のコクが舌を覆い、日本酒度-6らしい甘口がはっきり前に出る。それでいて酸度1.3の酸が後半をすっと締めるため、甘ったるさで終わらず、案外スッキリと切れていくのが菊姫らしいところだ。アルコール14度台で飲み口は重すぎず、甘口にごりにありがちな「だるさ」がない。冷やしてデザート感覚で、あるいは雪見酒として常温で——寒い季節にこそ本領を発揮する。
ペアリングは、甘みと相性の良い皿や、こってりした料理。鍋料理の締めに、あるいは焼き芋やアイスクリームと合わせてデザート的に楽しむのも面白い。意外なところではブルーチーズの塩気と甘い滓のコントラストがよく、食後酒としての顔も持つ。辛口酒の合間に、甘いにごりで舌を変える一本として重宝する。
価格は720mlで1,000〜1,300円前後と、菊姫のなかで最も気軽な価格帯。山廃や大吟醸で構えがちな蔵だが、このにごりは「冬の楽しみ」としてもっと気軽に手に取ってほしい一本だ。甘口にごりを敬遠してきた人ほど、菊姫の酸の効いたキレに驚くはず。蔵の幅広さを示す異色の定番として、編集長・丸山も冬場の棚に欠かさず並べている。