

「先一杯(まずいっぱい)」という名のとおり、その日の最初の一杯に向けて造られた、菊姫の純米ラインで最も軽い一本だ。兵庫県吉川産・特Aの山田錦を100%、65%まで磨いて使いながら、9号酵母による速醸酛で軽快に仕上げ、アルコール度数を14度台に抑えている。山廃で名を馳せた蔵の濃醇なイメージとは対照的に、肩の力を抜いてするする飲める設計で、菊姫の入門にも、酒席の口開けにも置きやすい。同じ蔵の「山廃純米」が燗で旨みを膨らませる濃い男酒だとすれば、こちらは冷やでさらりと始める軽口の弟分という位置づけだ。
香りは控えめ。派手な吟醸香は持たず、米由来の穏やかな含み香がほのかに立つ程度で、料理の前に出しゃばらない。良くも悪くも自己主張は強くなく、食卓の最初の一杯としての役割に徹している。
味わいは、軽快ながら山田錦らしい旨みの芯がある。一口含むと米の旨みがすっと広がり、日本酒度+2前後のほどよい辛口がきれいに切っていく(数値は非公開のため編集部推定)。アルコール14度台の軽さも手伝って、口当たりは驚くほど軽い。それでいて速醸酛の純米らしいコクがあり、水っぽさは感じさせない。冷や(8〜12℃)でキレ良く、常温でも旨みがほどけるが、本領はやはり冷やしてからの一杯目にある。
ペアリングは、口開けに似合う軽めの肴。刺身や冷奴、塩の焼き鳥、おでんといった淡い味付けに自然に寄り添う。濃い味の煮物や鍋には山廃ラインを、最初のさっぱりした一杯にはこの先一杯を、と蔵のなかで役割を分けて使うのが粋な飲み方だ。
価格は720mlで1,300〜1,600円前後と、菊姫のなかでも最も手に取りやすい価格帯。山田錦を使った純米でこの軽さと価格は貴重で、晩酌の常備酒として優秀だ。「菊姫=重い」という先入観を覆す一本でもあり、まずここから蔵の世界に入るのも悪くない——その日の一杯目に、と編集長・丸山も気軽に勧めている。