

兵庫県北部・但馬の香美町で醸される「香住鶴(かすみつる)」は、全商品を生酛・山廃で仕込むという徹底ぶりで知られる蔵。その代表格である山廃純米は、地元の酒米「兵庫北錦」を63%まで磨き、山廃仕込みらしい深い旨みと骨格を備えた一本だ。
香りは穏やかで、山廃由来の乳酸的なニュアンスと、米を炊いたような香ばしさが感じられる。一口含むと、まず米の旨みがしっかり立ち上がり、続いて酸度1.6の落ち着いた酸が骨格を作る。日本酒度+6の辛口設計で後味は引き締まり、芳醇でありながらだらしなく甘く残らない。但馬の海の幸を受け止めるために造られた酒だと納得できる味わいだ。
この酒の真価は温度を上げたときに表れる。冷酒(12℃前後)では酸とキレが前に出てシャープだが、ぬる燗(45〜50℃)にすると山廃の旨みがふくらみ、香ばしさと甘みが一体になって膨らむ。熱燗(55℃)でも香りが暴れず、米の力強さがまっすぐ伝わってくる。「お燗の名手」と呼ばれる蔵の面目躍如だ。
地元の松葉ガニをはじめとする但馬の海産物との相性が抜群で、特に脂の乗ったかに味噌や焼き魚に山廃の酸と旨みがよく寄り添う。鶏の照り焼きやきのこの炒め物といった、旨みの濃い料理全般を受け止める懐の深さもある。
ペアリングは、焼き魚、かに料理、鶏の照り焼き、きのこの炒め物など。四合瓶で1,500円前後とコストパフォーマンスが極めて高く、燗酒を日常的に楽しみたい人にとって常備したくなる実力派の山廃純米。冬の鍋を囲む席で一升瓶を開けたくなる、そんな頼もしさがある。