

愛知県津島市、木曽三川の伏流水で1868年から酒を醸す長珍酒造。その定番純米にあたる「特別純米」を、編集部として腰を据えて向き合った。注いだ色合いはやや黄味を帯び、香りより先に「これは食事と並べる酒だ」という佇まいが伝わってくる。華やかさで売る純米大吟醸とは出発点からして違う、骨太な一本である。
香りは穏やかで控えめ。グラスに鼻を近づけると、炊いた米や栗を思わせる穀物様のニュアンスがほのかに立つ程度で、吟醸香のような派手さはない。搾った後に貯蔵タンクでじっくり熟成させる造りのためか、含み香にはわずかな熟成由来のコクが乗る。香りを楽しむ酒ではなく、口に含んでからが本番だと最初の一嗅ぎで察しがつく。
一口含むと、米の旨みが舌の中央にどっしりと広がる。精米歩合60%、アルコール16%、酸度1.6という数値どおり、輪郭のはっきりした濃醇な味筋。日本酒度はやや辛口寄りで、甘ったるさはなく、旨みの後にキレが追いかけてくる。温度帯による変化が大きいのもこの酒の魅力で、冷酒(10〜13℃)では酸とキレが前に出て引き締まり、ぬる燗(45〜50℃)に振ると旨みが一気にふくらむ。熱燗(55℃)でも香りが暴れず米の力強さが立つので、蔵元も推すとおり燗で本領を発揮するタイプだ。
ペアリングは、しっかり味付けした和の総菜と相性が良い。焼き魚、肉じゃがやぶり大根といった煮物、おでん、もつ煮。出汁と醤油のコクに旨みが共鳴し、料理の脂を酸が受け止めてくれる。淡い前菜より、味の濃い一皿に寄せたほうがこの酒の硬派な持ち味が活きる。
価格は720mlでおおむね2,000〜3,100円。純米大吟醸のような華やぎはないが、旨みの密度と燗での化け方を考えれば日常の食中酒として十分以上の働きをする。中京の濃い味好みを映した、流行り廃りと無縁の実直な純米。香りで選ぶ人より、米の味と燗酒を軸に日本酒を飲む人にこそ勧めたい一本だ。