

大阪府能勢町、山あいの秋鹿酒造による定番の純米酒「山田錦 稲穂ラベル」。グラスに注ぐとやや黄味を帯びた色調で、いかにも食卓向けの落ち着いた佇まい。最近の華やかでフルーティな潮流とは一線を画す、骨太な「飲ませる酒」という第一印象を受けた。蔵が自社田で山田錦を育て、米作りから醸造までを一貫して手がける造り(蔵では「一貫造り」と呼ばれる)が、この銘柄の背景にある。
香りは控えめで、グラスからは穀物や蒸し米を思わせる素朴なニュアンス。吟醸香のような上立ち香は最初から狙っていない設計で、嗅いだ瞬間に料理を呼ぶタイプ。含むと、わずかに乳酸系の酸が鼻に抜け、熟成由来とみられる香ばしさがうっすらと顔を出す。
味わいは、精米歩合75%の山田錦らしい米の旨みが厚く、そこにしっかりした酸が乗る濃醇辛口。編集部の体感では日本酒度は+5前後、酸度は1.8前後とみており(蔵が定番品の数値を公表していないため推定)、いずれにせよ甘さに頼らず酸とキレで締める構成だ。冷や(12〜15℃)では酸がやや尖って感じられるが、本領はぬる燗から。45〜50℃に温めると米の旨みがふくらみ、酸が丸くなって輪郭が整う。55℃の熱燗でも香りが暴れず、むしろキレが立つ。福島・大七の生酛とはまた違うが、同じく「燗で化ける」タイプとして並べたい一本。
ペアリングは味の濃い和食一辺倒で問題ない。焼き魚、煮物、おでん、もつ煮といった出汁と醤油の効いた料理に、この酒の酸が脂や塩気を流してくれる。繊細な刺身よりは、火の入った温かい料理と燗酒で合わせるのが秋鹿の正解だと考える。
価格は四合瓶でおおむね2,800〜3,300円(実勢)。純米としては中位の価格帯だが、自社栽培の山田錦を使い、燗で長く付き合える濃醇辛口という点を踏まえれば納得感がある。派手さはないが、食卓で毎晩温めて飲むほどに評価が上がる、編集長としては「通好みの常備酒」として推したい銘柄。