

葛城山の麓、奈良県葛城市で果実酒づくりでも知られる梅乃宿酒造の、看板的な定番純米。派手さで売る一本ではなく、日々の食卓に置いておける純米酒として編集部が長く頼りにしてきた銘柄だ。精米歩合70%、日本酒度+0.8、酸度1.7という数字どおり、甘辛のどちらにも振り切らない中庸の設計になっている。
栓を開けても香りは控えめで、米の炊けたような穏やかな香りがふわりと立つ程度。一口含むと、まず米の旨みがやわらかく広がり、後から酸が輪郭を引き締める。日本酒度はわずかにプラス側だが、酸度1.7のおかげで「甘い」とも「辛い」とも言い切れない、ほどよい厚みの味わいに着地している。
このタイプの純米酒は温度で表情が変わるのが面白いところで、冷やすと酸が立ってシャープに、常温では旨みのふくらみが素直に出る。本領を発揮するのはぬる燗(40〜45℃)で、温めると米の甘みと旨みが一段とふくらみ、酸が後ろに回って飲み口がまろやかになる。寒い時期に燗で合わせたい一本だ。
ペアリングは家庭料理との相性が良い。鶏の照り焼きや豚の角煮といった甘辛い味付け、おでんや厚揚げの煮物のような出汁の効いた料理に、酸と旨みがすっと寄り添う。逆に繊細な白身魚の刺身に合わせると、この酒の旨みがやや勝ってしまうので、味のしっかりした料理を選ぶのが正解だと感じる。
四合瓶で1,400〜1,800円ほどという価格は、毎日の晩酌に無理なく回せる水準。突出した個性で記憶に残る酒ではないが、食事を邪魔せず燗でも冷やでも破綻しない懐の深さがある。常備しておく一本を探している人に勧めたい、奈良の実直な純米酒だ。