

春鹿といえば日本酒度+12の超辛口、というイメージで蔵に入ると、この封印酒で良い意味の肩透かしを食らう。山田錦を精米歩合55%まで磨き、日本酒度は-5前後と、超辛口とは真逆の甘やか路線に振った純米吟醸だ。瓶口に封を施した意匠から「封印酒」と名付けられたこの一本は、辛口の蔵が見せる香りの引き出しを象徴している。
栓を開けると、上質なメロンを思わせる華やかな吟醸香がふわりと立ち上がる。同じ蔵の白滴がやわらかく穏やかな香りなら、こちらはより前に出る甘い果実香で、グラスに鼻を寄せた瞬間に主張がある。香りで飲み手を掴みにいく設計が明確で、辛口の春鹿しか知らない人ほど驚く香り立ちだ。
味わいは、含むと軽やかな旨みと果実的な甘みがなめらかに広がり、酸度1.7前後がそれを締めて間延びさせない。日本酒度-5の数字どおり甘さは感じるが、べたつかず上品で、後半は山田錦らしい綺麗な旨みとともに穏やかに引いていく。アルコール分は15度。8〜12℃の冷酒で香りが最も美しく開き、温度を上げると甘みが重たく出るので、この酒は冷たい温度帯で楽しむのが本領だ。
ペアリングは、香りと甘みに寄り添う淡い味付けが正解。メロンや桃といった果物、白身魚のカルパッチョ、クリームチーズ、鶏のレモン蒸しなど、酸や香りの要素を持つ皿と重ねると、封印酒の華やかさが料理側の香りと響き合う。濃い味や脂の重い料理よりも、軽やかな一品と冷酒で合わせたい。
価格は四合瓶で1,900〜2,100円前後(実勢)。純米吟醸として手頃で、香りの満足度は高い。超辛口の硬派な看板を持つ蔵の、最も華やかな表情として、編集長としては「辛口の春鹿しか知らない人への一本」に推したい。