

奈良県吉野町の美吉野醸造による「花巴(はなともえ)」は、「酸と旨みが響きあう酒」を掲げる蔵の代表銘柄。水酛・山廃・速醸を使い分け、いずれも一般的な日本酒の枠から大きくはみ出した酸の高さを特徴とする。今回向き合った純米は、その世界観を最も素直に体現した一本だと感じた。
グラスに注ぐと、やや色づいた液体から乳酸を思わせる発酵的な香りと、穀物や栗のような含み香が立ち上がる。一口含んで驚くのは酸度2.8という数値の通りの強い酸味で、これが米の濃い旨みと真正面からぶつかり合う。よくある「淡麗でスイスイ飲める」タイプとは対極で、噛むように味わう酒だ。
日本酒度は+5で辛口の領域だが、酸が支配的なので「辛い」より「酸っぱくて旨い」という印象が前に出る。アルコール17%の力強さもあり、一杯目から飲み手に集中を求めてくる。万人受けする酒ではないが、ナチュラルワインや古典的な熟成酒を好む層には強く刺さるはずだ。
温度を上げると表情が大きく変わる。冷酒では酸が尖って感じられるが、ぬる燗(45℃前後)にすると酸が丸まり、米の旨みがふくらんで一気に飲みやすくなる。むしろこの酒は燗で本領を発揮するタイプで、熱燗にしても香りが崩れず骨格を保つ。
ペアリングは、もつ煮や鴨ロース、ハードチーズ、トマトを使った煮込みなど、こちらも旨みと酸のある料理を選びたい。淡い味付けの和食に合わせると酒だけが浮いてしまう。四合瓶で2,000円前後と価格は手頃で、「個性的な酒を試したい」という探求心に応えてくれる一本。