

京都・伏見の増田徳兵衛商店は、にごり酒の元祖として知られる古い蔵だが、今回向き合ったのは澄んだ純米酒「祝80%」。京都府産の酒米「祝(いわい)」を精米歩合80%という低精白で仕込んだ一本で、米をあえて磨かずに残すという、近年の高精米競争とは真逆の発想で造られている。グラスに注ぐと、わずかに山吹がかった色合い。最初から食卓を意識した、骨のある純米酒という佇まいだ。
香りは抑えめで、蒸し米や炊いた米飯を思わせる穀物系のニュアンスが中心。蔵の資料ではバナナを思わせる含み香に触れているが、編集部の体感では香りより先に「米の厚み」が立ち上がる印象だった。上立ち香で誘うタイプではなく、含んでから本領を発揮する設計と受け取った。
味わいは、低精白らしい米の旨みと、わずかな苦味・渋味が同居する濃いめの構成。蔵公表の日本酒度は+3、アルコール分は16度で、数字のうえでは中口だが、口に含むと甘辛よりも「旨みの密度」が主役だと感じる。酸度は蔵が明示していないため編集部では1.6前後と見ているが(要確認)、いずれにせよ酸が突出するタイプではなく、旨みと苦味のバランスで飲ませる酒だ。冷やでも飲めるが、本領はぬる燗から。40〜50℃に温めると米の甘みと旨みがふくらみ、低精白由来の雑味がうまく旨みに転じる。熱燗にしてもだれず、むしろキレが立つのは祝という米の力だろう。
ペアリングは、出汁と醤油の効いた温かい和食が相性の軸になる。焼き魚、おでん、鶏の照り焼き、根菜の炊き合わせなど、塩気と旨みのある料理に、この酒の厚みがよく寄り添う。繊細な白身の刺身よりは、味のしっかりした料理を燗酒で受け止めるのが、この銘柄らしい飲み方だと考える。
価格は四合瓶でおおむね3,500〜4,000円(実勢)。純米酒としては高めだが、京都の地米「祝」を80%という珍しい磨きで表現した個性料と捉えれば納得感がある。華やかさを求める向きには向かないが、米の存在感そのものを燗で味わいたい人に、編集長として勧めたい変化球の一本。