

甘旨で知られる東洋美人のなかで、完全に毛色が違うのがこの「大辛口」。日本酒度プラス15という思い切った設計で、甘い東洋美人しか知らない人がいちばん驚く一本だ。山田錦を精米歩合55%で仕込んだ純米吟醸、アルコール16度。酸度1.6と数値も辛口らしく振ってあるが、ただ辛いだけの酒にしていないのが澄川酒造場の腕だと思う。
香りは控えめで、軽やかな果実香がうっすら。口に含むと、最初にすっと果実のニュアンスが立ち、そのあと硬めの旨みがじわりと広がる。後半はパリッと透明感のある後口で、シャープに切れていく。プラス15という辛口スペックなのに、辛さの奥に山田錦の旨みがちゃんと潜んでいて、痩せた印象がない。「辛さの中に甘さを秘めた」と評されるのも納得の構成だ。
醇道一途や壱番纏が「甘旨で魅せる東洋美人」だとすれば、これは真逆の振り切り。同じ蔵・同じ山田錦でも、日本酒度を二十も振れば酒はここまで変わる。蔵の引き出しの広さを示す一本で、東洋美人=甘口という先入観を気持ちよく裏切ってくれる。
温度は冷酒からぬる燗まで懐が深い。冷やすとキレが際立ち、温めると硬めの旨みがほどける。料理は天ぷら、焼き魚、揚げ出し豆腐、鶏の唐揚げといった、油や旨みのある皿。辛口のキレが脂を流し、後味を軽くしてくれる、まさに食中の即戦力だ。
四合瓶でおよそ1,500〜1,800円と価格も手頃。食事に寄り添う辛口を探している人、甘口に飽きた人にこそ試してほしい。東洋美人のもう一つの顔を知る、入口にして実力派の一本だ。