

同じ「醇道一途」でも、雄町を使うとここまで表情が変わるのか、と毎回うならされる一本。澄川酒造場が山田錦版と並べて出している限定純米吟醸で、精米歩合は麹米35%・掛米50%、アルコール14度と設計の骨格は山田錦版とそろえてある。だからこそ、米の個性だけがくっきり浮かび上がる。
香りは山田錦版より少し落ち着いていて、白い花や熟れた果実のニュアンス。口に含むと、雄町特有のふくよかな旨みがぐっと前に出てくる。日本酒度マイナス3、酸度1.5あたりの数値どおり、甘みは穏やかでありながら旨みの密度が高く、余韻が長い。飲み込んだあとに舌の上に残る旨みの尾が、山田錦版にはない雄町の魅力だ。
山田錦版が「端正」なら、こちらは「ふくよかで野趣がある」。同じ蔵の同じ仕込み思想で、ここまでキャラを描き分けられるのは、米の声を聞ける造り手だからこそだと感じる。飲み比べセットで並べると、その差は誰の舌にもはっきり伝わるはずだ。
冷酒でも旨みが乗るが、私はこの酒に限っては10〜15℃の少し高めの温度を勧めたい。雄町の膨らみが開く。料理も山田錦版より幅広く、鴨ロース、焼き椎茸、ぶりの照り焼き、牛しぐれ煮といった旨みやコクのある皿を受け止める。
四合瓶でおよそ1,900〜2,600円。山田錦版と数百円差で、雄町好きならこちらを選ぶ価値は十分にある。東洋美人の「米違い」を一本で体感できる、教材のような銘柄だ。