

島根県出雲市の板倉酒造(明治4年創業)が醸す「天穏 純米酒 白ラベル」は、御神酒のような清らかで穏やかな酒質を追う蔵の哲学が端的に表れた定番純米。グラスに注ぐと色味は淡いレモンイエロー、立ち香はごく控えめで、派手な吟醸香で主張するタイプとは対極にある。第一印象から「静かな酒」という言葉が浮かぶ。
香りは穀物様の落ち着いたトーンが中心で、炊いた米や乾いた藁を思わせる含み香がほのかに立つ。山陰吟醸造りに突きハゼ三日麹を組み合わせ、新酒(速醸・7号酵母)に前年度の生酛貯蔵酒をブレンドする構成で、香りで惹きつけるのではなく口に含んでから旨みがじわりと広がる設計になっている。
味わいの軸は米の滋味。日本酒度+7と数字上は辛口に振れているが、シャープに切るというより、ほどけるような旨みのあとに酸度1.8の骨格が後口を引き締める。温度帯の振れ幅が広いのもこの酒の魅力で、冷酒(12〜14℃)では輪郭がやや締まり、常温で旨みがほどけ、ぬる燗(45℃前後)にすると米の甘旨が膨らんで一段とまろやかになる。熱燗(50〜55℃)でも香りが暴れず、滋味が前に出るので、編集部としては燗での評価が最も高かった。
ペアリングは出雲らしい食中酒の方向で考えたい。焼き魚や煮物、おでん、出汁巻き卵など、出汁と塩気の効いた和の家庭料理と素直に重なる。生酛由来の酸があるため、もつ煮のようなコクのある一皿にも負けない。繊細な前菜より、しみじみとした惣菜と合わせたとき本領を発揮する。
価格は四合瓶で1,300〜1,500円前後と、毎晩の晩酌に置ける現実的な水準。派手さで勝負する一本ではないが、燗にして料理と寄り添わせたときの安定感は際立つ。出雲の蔵が守る穏やかな酒質を知るうえで、編集長として家に常備しておきたい一本に挙げたい。