

東京・福生の石川酒造が醸す「多満自慢」。1863年創業の蔵で、ビール醸造も手がける都心に近い老舗だ。今回向き合ったのは蔵のロングセラーである純米無濾過のタイプ。グラスに注ぐと、無濾過らしいごく淡い山吹色がのぞく。
香りは派手さのない穏やかな含み香で、炊いた米と麹のふくよかな香りが鼻に抜ける。一口含むと、まず舌の中央に米の甘みがじんわり乗ってくる。日本酒度はマイナス側(-5前後)に振れた設計で、辛口というより「旨みと甘みの厚み」を前に出した味わい。後半に酸が締めるので、甘さがだれずに収まる。
精米歩合70%という磨きすぎない造りが、この酒の性格をよく表している。雑味としてではなく、米の旨みの輪郭として残る部分がしっかりある。冷やよりも常温〜ぬる燗(40℃前後)に寄せると、甘みと旨みが膨らんで一段とまとまりが良くなった。燗向きの純米酒という評価が腑に落ちる。なお純米無濾過は東京国税局の鑑評会で純米燗酒部門の優秀賞(2024年)を受けており、燗適性は造り手の狙いでもあるようだ。
合わせたいのは、こってりした煮込み系。豚の角煮、タレの焼き鳥、鴨鍋、煮魚といった甘辛い味付けの料理と並べると、酒の旨みが料理を受け止めて飲み飽きしない。淡い味付けの料理だと酒の甘みが勝ちやすいので、味の濃い和食に寄せるのが正解だと感じた。
価格は四合瓶でおおむね1,400〜1,700円(時期・販路で変動)。東京の地酒としては手に取りやすく、家庭の常備酒、とりわけ燗で楽しむ一本として現実的な選択肢になる。