

奈良県宇陀市・久保本家酒造の「睡龍」は、杜氏・加藤克則氏のもとで生酛造りと熟成を徹底する蔵の看板銘柄。縞模様のラベルでも知られ、出荷まで数年寝かせてから世に出す造りが特徴だ。今回の生酛純米は、五百万石・日本晴をブレンドした精米歩合65%、アルコール15度。日本酒度+12という数字が示すとおり、まごうことなき辛口熟成酒である。
香りは華やかさとは無縁で、熟成由来のナッツやドライフルーツ、わずかにカラメルを思わせる落ち着いたトーン。冷たいまま口に含むと、生酛らしい厚みのある酸(酸度2.2)と熟成の苦みがまず立ち、甘みはほとんど顔を出さない。日本酒度+12の超辛口だけあって、後口は驚くほどドライにキレていく。これは単体でちびちび飲むより、明確に料理を待っている酒だ。
本領を発揮するのは燗。ぬる燗(45℃)から熱燗(50〜55℃)に上げていくと、冷酒で硬く感じた酸と旨みがほどけ、米の旨みと熟成のコクが一気にふくらむ。それでいて+12の辛口が背骨として残るので、どれだけ温めても腰砕けにならない。燗冷ましでもう一段まろやかになるところまで含めて、温度で遊べる燗酒の優等生と言っていい。
ペアリングは、甘辛く濃い味の鍋・煮込み。すき焼き、ぶり大根、おでん、牡蠣鍋。料理の脂と甘辛さを、この酒の酸とキレが小気味よく断ち切り、口の中をリセットしてくれる。脂の多い冬の食卓ほど強い相性を見せる。
価格は四合瓶で1,800〜2,200円ほど(実勢)。数年熟成させた生酛純米がこの価格で日常燗酒に使えるのは破格だ。華やかな酒に疲れたとき、料理と一緒に静かに飲み続けたくなる、玄人好みの一本として推しておきたい。