

「死神」という名前を聞いて引く人と、逆に手に取る人がいる。加茂福酒造(邑南町)がこの縁起の悪い名前を付けたのは、淡麗辛口が全盛だった頃に「流行と真逆をやったら面白い」という発想からだったという。実際に飲むと、名前のインパクトに負けない濃さがある。
色からして淡くない。やや黄金がかった液体で、古酒をブレンドしているという話のとおり、熟成のニュアンスが香りに乗る。口に含むと深い酸と、とろりとした甘み、そして米の旨みが層になって押し寄せてくる。淡麗とは正反対の、輪郭の太い酒だ。
この酒は冷やで飲んでも個性は分かるが、本領はぬる燗にある。40℃前後まで温めると酸と甘みが溶け合って、角煮やすき焼きのような甘辛い煮込みと真正面からぶつかり合える。燻製や熟成チーズのような癖のある肴とも、互いに引かずに渡り合う。
蔵は使用米・精米歩合を公開していない。frontmatterの五百万石・精米歩合65%・日本酒度-2・酸度1.8は、島根の純米でこの濃醇な味わいを成立させる代表値として置いた推定であり、ラベルの実数値とは異なる可能性がある。確定しているのはアルコール15%と純米であることだけだ。
四合瓶で2,000〜2,500円。万人向けではないし、毎日飲む酒でもない。ただ「淡麗辛口に飽きた」「燗で化ける個性派が欲しい」という人にとっては、名前のキワモノ感を超えて記憶に残る一本になる。