

漫画の主人公・島耕作のラベルをまとった、ひときわ異色のSKUが「獺祭 純米大吟醸 島耕作」だ。2018年の西日本豪雨の際、停電で発酵管理が乱れ、旭酒造が通常の獺祭の品質基準に達しないと判断した酒を、廃棄せず前向きに世に出すために生まれた。売上の一部が被災地支援に充てられる、背景に物語を持つ一本である。
中身は純米大吟醸として仕立てられており、ベースは三割九分相当の磨きと位置づけられる。ここに記したスペックは公開情報が限られるための推定値だが、グラスに注ぐと、通常の獺祭に通じる華やかな吟醸香がしっかり立つ。アクシデント由来とはいえ、味の素性は紛れもなく獺祭のそれだ。
飲み口は、レギュラーの三割九分や45と比べてやや素朴な印象を受ける。完璧に整った上位SKUの「優等生らしさ」とは少し違い、米の旨みがやや前に出て、ところどころに親しみやすい揺らぎがある。それが欠点というより、この酒ならではの人間味として楽しめるのが面白いところで、整いすぎた獺祭に少し肩肘張ってしまう人にはむしろ向いている。
冷酒(8〜12℃)で香りを楽しむのが基本だが、構えずに気軽に飲める懐の深さがある。ペアリングは焼き鳥(塩)や白身魚の刺身、厚焼き玉子、枝豆といった肩の力を抜いた家飲みの定番と好相性。畏まった席より、仲間内で物語を肴に酌み交わすシーンが似合う。
価格は時期や流通によって振れ幅が大きく、企画の性格上いつでも手に入るわけではない。スペックそのものより「西日本豪雨からの復興」という背景と、コラボラベルの話題性に価値を見出す一本だ。獺祭という蔵の姿勢が垣間見える、コレクション的にも一度は手に取ってみたいSKUである。