

尾崎酒造の「安東水軍 純米」は、青森県西海岸・鰺ヶ沢に唯一残る酒蔵が醸す津軽の地酒だ。万延元年創業、世界自然遺産・白神山地の湧水を仕込み水に使う蔵で、中世にこの地を治めた豪族「安東(安藤)水軍」の名を冠した昭和63年誕生のブランド。赤いラベルが目を引く一本で、グラスに注ぐとわずかに色味を感じる程度。第一印象は華やかさよりも「腰の据わった旨口」で、日本海に面した港町の食を受け止める食中酒という佇まいがまず伝わってくる。
香りは控えめで、炊いた米や穀物を思わせる落ち着いたトーンが中心。華想い・まっしぐらという青森産米由来とおぼしき素朴な米の香りがあり、吟醸香で主張するタイプではない。香りで楽しむというより、口に含んでからの旨みで勝負する造りだと受け取った。鼻を近づけても刺さるようなクセはなく、清潔にまとまっている。
味わいは、含むと米の旨みがしっかりと舌に広がり、そこに酸度1.9のやや高めの酸が骨格を与えている。日本酒度+2.9と数値上はやや辛口だが、酸がきいている分だけ「淡麗な辛口」ではなく「旨みと酸のある旨口」と表現したい。後半は酸に支えられてきれいに引き、余韻に米の含みが残る。温度帯の懐が広く、冷やせば酸が締まってシャープに、ぬる燗(40〜45℃)にすると旨みがふくらんで酸が丸くなり、燗で本領を発揮するタイプだ。
ペアリングは、津軽の海を思わせるイカの刺身や貝の酒蒸し、焼き魚といった魚介と好相性。酸があるぶん脂や塩気のある料理にも負けず、冬場は燗にして鍋料理と合わせると一体感が出る。繊細な吟醸を合わせたい場面より、しっかりした魚料理を受け止めたい食卓で生きる性格だ。
価格は720mlで1,500〜1,900円前後と、日常使いに手の届く実勢。華やかさで驚かせる一本ではないが、白神山地の水で醸す「酸のきいた旨口の純米」という個性がはっきりしている。冷やでも燗でも崩れず、津軽の魚料理と通して飲める。家に常備して、特に燗で重宝したくなる骨太な良酒だ。