

山形正宗のなかでも、看板の純米吟醸とは別の表情を見せるのが、この「酒未来」だ。酒未来は十四代の高木酒造が長い歳月をかけて育てた酒造好適米で、同じ山形の蔵がこの米を50%まで磨いて仕込む。端正でキレ重視の定番路線とは設計思想が違い、米そのものの香りと果実味を前へ出した一本になっている。
グラスに注ぐと、メロンや白桃を思わせる甘い吟醸香が、定番の純米吟醸より明確に立ちのぼる。雄町仕込みの定番が「料理に寄り添う涼しさ」だとすれば、こちらは「米の華やかさを味わわせる」方向。香りの第一印象だけで、同じ蔵でも狙いが違うことが伝わってくる。
含むと、酒未来らしいふくらみのある旨みと、和菓子のような優しい甘酸が口中に広がる。日本酒度はおおむね中庸で、酸度1.5前後が甘さを締めるため、ジューシーでも重さは残らない。水戸部酒造が貫く硬水仕込みの骨格が下支えしているので、香り系でありながら輪郭がぼやけないのが好ましい。冷やしすぎず12〜16℃あたりで、旨酸味がもっとも豊かにふくらむ。
ペアリングは、定番の食中酒路線より少し洋に寄せても合う。白身魚のカルパッチョ、フルーツを添えた前菜、鶏の塩麹焼き。香りと甘みがあるぶん、羊羹や干菓子のような和菓子と合わせて食後の一杯にする飲み方も楽しい。出汁の効いた料理一辺倒で攻めるより、香りを生かす組み立てのほうが酒未来の個性が立つ。
四合瓶で1,900〜2,400円前後(火入れ)。生酒バージョンはこれより高くなることが多い。雄町の定番を「料理の引き立て役」として常備しつつ、香りで遊びたい日のためにこの酒未来を別枠で置く——そんな使い分けができる蔵だと、改めて感じさせてくれる一本だ。