

株式会社わしの尾の「鷲の尾 辛口純米酒」を、編集部で開けてみた。わしの尾は1829年創業、岩手県八幡平市に蔵を構える老舗で、岩手山の伏流水を仕込み水に使う山の蔵だ。フランスの日本酒コンクール「Kura Master」での受賞歴もあり、地に足のついた造りに定評がある。グラスに注ぐとほぼ無色に近い澄んだ色合いで、「辛口純米」を名乗るとおり、最初の一杯からすっきりと引き締まった印象を受ける。
香りは控えめで、穀物系のやわらかな米の香りに、ほのかな果実のニュアンスがのる程度。吟醸香で主張する設計ではなく、あくまで食卓の主役を料理に譲る、食中酒としての香り立ちだ。岩手の酒造好適米「ぎんおとめ」を60%精米した素材感が、嫌味なくまとまっている。
味わいは、口に含むと米の旨みが穏やかに広がり、後半で酸とキレが追いかけて後口を切る。日本酒度は-0.2と数字上は中庸だが(蔵元・販売店表記による代表値)、酸度1.7が骨格を支えているため、体感としては「辛口」と名乗るにふさわしいドライな飲み口になる。甘さの余韻を引きずらず、次の一口を誘うキレの良さが、この酒の身上だ。痩せた辛口ではなく、旨みの土台がきちんとある点が好ましい。
温度帯の懐が深いのも魅力。冷酒(10℃前後)ではキレと透明感が際立ち、常温に戻すと米の旨みがふくらみ、ぬる燗(40℃前後)にすると後口がやわらかくなって旨みが膨らむ。冷やしてシャープに、温めてふくよかに、どちらの飲み方も様になる。山の蔵らしく、燗にしたときの安定感が特に印象に残った。
ペアリングは、白身魚の刺身や焼き魚といった淡い和食に素直に合うほか、鶏の唐揚げやおでんなど、家庭の定番料理にも幅広く寄り添う。辛口のキレが脂や塩気をすっと流してくれる。価格は720mlで1,300〜1,600円前後(実勢)と日常使いに優しく、毎日の晩酌に常備しておきたい性格の酒。派手さで勝負する一本ではないが、岩手の山の蔵が長く磨いてきた「食に寄り添う辛口純米」の完成度を、肩肘張らずに味わえる良酒だ。