

赤武酒造の「AKABU 純米酒」は、岩手県盛岡の新世代蔵が手がけるレギュラークラスの純米酒。東日本大震災で大槌町の蔵を失い、盛岡市内に再建した蔵で、東京農大で醸造を学んだ若き杜氏・古舘龍之介氏が中心となって生まれたブランドだ。グラスに注ぐとほぼ無色に近い澄んだ色合いで、立ち上がる第一印象は「軽やかさ」。重たさや古風さは一切なく、まさに今の岩手の味と呼びたい一杯。
香りは派手すぎない控えめな果実香。青リンゴや梨を思わせるみずみずしい香りが穏やかに漂い、吟ぎんが由来と思われる軟らかな米の香りがそこに重なる。プレミアム吟醸のような華やかさで主張するタイプではなく、料理の邪魔をしない節度ある香り立ちが好印象だった。
味わいは、口当たりがとにかくクリア。含むと軽快な甘旨が舌の中央にすっと乗り、後半は穏やかな酸が支えてきれいに引いていく。日本酒度・酸度は蔵が非公開のため編集部の推定値だが、体感としては甘辛中庸でやや甘旨寄り、淡麗系の軽い飲み口。温度帯は冷酒(8〜12℃)が最も表情が整い、みずみずしさが際立つ。10℃を超えると米の旨みがふくらみ、常温に近づくと輪郭がやや緩むので、冷たさを保って飲むのがおすすめだ。
ペアリングは、白身魚の刺身や鶏の塩焼きといった淡い味付けの和食と素直に合う。出汁の効いた煮浸しや山菜の天ぷらなど、岩手の食卓を思わせる優しい料理とも好相性。味の押しが強い料理よりも、素材の繊細さを引き立てたい場面で生きるタイプ。盃が進む軽さがあるので、食中酒として常備しておきたい性格の酒だ。
価格は720mlで1,700〜2,000円前後と、純米酒として手に取りやすい実勢。この価格でこのクリアさと完成度なら、日常使いのローテーションに迷わず加えられる。プレミアム銘柄のような希少性や圧倒的な個性で勝負する一本ではないが、新世代の岩手酒が持つ「みずみずしく軽快な甘旨」を素直に味わえる、入門にも普段使いにも適した良酒。AKABUというブランドの基準点として、まず押さえておきたい。