

楯の川酒造の渓流(けいりゅう)シリーズは、清流(せいりゅう)と並ぶ「水の流れ」をモチーフにした一本。この美しき渓流(うつくしきけいりゅう)は、蔵の主力である出羽燦々ではなく、庄内産の美山錦(みやまにしき)を100%使った点が最大の個性だ。契約農家が育てた地元の美山錦を50%まで磨き、その滑らかでキレの良い酒質をどこまで引き出せるかに焦点を当てている。
香りは控えめで、立ち香よりも含み香で楽しむタイプ。山形KA酵母を使い、青リンゴや若い果実を思わせる清涼感のある香りがそっと立つ。日本酒度-1とほぼ中庸ながら、美山錦特有の硬質でシャープな輪郭があるため、味わいは数字以上に引き締まって感じられる。酸度1.6、アミノ酸度0.9、アルコール15度。出羽燦々の清流が持つふくよかな甘み主体の設計とは方向性が異なり、こちらは「キレと透明感」で勝負している。
冷やすほど真価が出る。よく冷えた状態でグラスに注ぐと、美山錦らしい涼やかな飲み口が際立ち、文字どおり渓流のような清冽さが口中を通り抜ける。常温に近づくと米の旨みがふくらむので、温度で表情が動くのを確かめながら飲むと面白い。
ペアリングは軽やかな和食が好相性。天ぷら、山菜のおひたし、冷奴、鮎の塩焼き。出汁や素材の味を邪魔せず、シャープな酸とキレが脂や衣をすっと流してくれる。同じ「渓流」を冠する清流よりもさらに食中酒に振った設計で、献立を選ばない使い勝手の良さがある。
四合瓶で2,000〜2,800円。限定品ながら美山錦100%の純米大吟醸としては手に取りやすい価格帯だ。出羽燦々ベースの定番を飲み慣れた人にこそ、米違いによる酒質の差を体感してほしい。楯野川の引き出しの多さがよく分かる、地味だが実力のある一本。