

醉心山根本店は、1860年(万延元年)に三原で創業した広島の蔵だ。「醉心(すいしん)」という銘は、二代目が夢のお告げで名づけたと伝わる、いわくつきの名前。日本画の大家・横山大観が愛した酒としても知られる。この純米吟醸「醉心稲穂」は、鷹ノ巣山の伏流水である超軟水「銘水ぶなのめぐみ」で醸す、蔵の思想がよく表れた一本。麹米に山田錦を使い、精米歩合60%で仕立てた、柔らかな飲み口が身上の純米吟醸だ。
香りは穏やかで、上品な吟醸香がほのかに立つ程度。派手なメロンやパイナップル系ではなく、蒸した米と、ほんのり果実を思わせる落ち着いた含み香。色は淡く、見た目も端正だ。広島の軟水仕込みらしい、最初から角の取れた優しい立ち上がりが印象的で、香りで押さず口当たりで魅せるタイプだと分かる。
口に含むと、超軟水ならではの柔らかさが先に来る。とがったところがなく、まろやかな旨みと穏やかな甘みがゆっくり広がる。日本酒度はおよそ+2.5、酸度1.6あたりの設計で(※公開情報をまとめたもの)、数字は中庸ながら、軟水由来のまろやかさのおかげで辛さを強く感じさせない。キレは鋭いというより、すっと滑らかに引いていく。冷酒(10〜12℃)で清涼感が出て、常温〜ぬる燗にすると旨みの膨らみが増す。温度を上げても荒れず、幅広い温度帯で楽しめる懐の深さがある。
合わせたい料理は、繊細な味付けの和食が中心。白身魚の刺身、湯豆腐、炊き合わせ、そして広島らしく牡蠣料理。柔らかな口当たりが、出汁の繊細な料理に寄り添い、決して味を上書きしない。脂の強い料理よりも、淡く上品な味付けと組ませたときに真価が出るタイプだ。
価格は720mlで実勢1,400〜1,800円ほど(※流通により変動)。軟水仕込みのまろやかな純米吟醸としては手に取りやすく、辛口でキレを楽しむ酒とは別の、「柔らかさで魅せる広島」を知るうえで分かりやすい一本。秋の全国酒類コンクールで上位入賞した実績もある人気銘柄だ(※公開情報をまとめたもの)。