

神奈川・愛川町の大矢孝酒造が手がける「昇龍蓬莱」。1830年創業の蔵で、ほぼ7号酵母のみを使い、伝統的な生酛(きもと)の酒母造りにこだわる硬派な造り手だ。今回試したのは生酛仕込みの純米。冷やと燗で違う顔を見せる二面性が、この銘柄の真骨頂とされる。
冷やで開けると、香りは控えめながら生酛由来の乳酸を感じさせる奥行きがある。一口含むと、最初はキリッと締まった酸が立ち、その後ろから米の旨みがゆっくり追いかけてくる。日本酒度+3、酸度1.6という数値以上に、酸の存在感がしっかりした骨太な味わい。冷たい状態では輪郭がシャープで、若干の硬さも感じる。
温度を上げると印象が一変する。ぬる燗(40〜45℃)に寄せると、冷やで硬かった部分がほどけ、米の旨みと酸が一体になって厚みのある味へと変わる。生酛らしい複雑さが温度で開いていく過程そのものが楽しい。同じ一本とは思えない振れ幅で、これが「二面性の酒」と評される理由だとよく分かった。
合わせるなら、酸と旨みに負けない料理。赤身の刺身、鶏の塩焼き、牡蠣、豚しゃぶといった素材感のあるものと並べると、酒の酸が脂を切りながら旨みを足してくれる。冷やでは繊細な料理、燗では濃いめの料理と、温度で合わせ先を変えられるのも面白い。
価格は四合瓶で1,600〜2,000円前後(販路・スペックで変動)。流通は特約店中心だが、神奈川の生酛純米として個性がはっきりしており、燗酒派にこそ試してほしい一本だ。