

呉の海軍とともに育った「千福」を醸す三宅本店は、安政3年(1856年)創業の老舗。軍港の街で飲まれてきた酒という出自もあって、千福には「派手さより飲み飽きしない」という一本筋の通った設計思想がある。今回向き合ったのは普及帯の純米吟醸「味わいの純米吟醸」で、四合瓶で1,500円前後という価格を考えると、よく出来た日常酒だと感じる。
グラスに注ぐと、吟醸香は控えめで、米の甘い香りがふわりと立つ。精米歩合60%という数字どおり、過度に磨いて香りを際立たせる方向ではなく、米の旨みを残す造り。日本酒度-1、酸度1.6という数値が示すとおり、口に含むと最初にやわらかな甘みが来て、そのあとを酸が支える。重たくはないが、痩せてもいない中庸のバランス。
このタイプの酒は冷やしすぎると持ち味が出ない。10〜15℃あたりの軽く冷えた状態か、いっそ40℃前後のぬる燗にすると、甘みと旨みがほどけて本領を発揮する。燗にしたときの伸びの良さは、軟水仕込みの広島酒らしい一面で、寒い時期の晩酌にちょうどいい。
ペアリングは家庭料理が合う。煮魚やおでん、肉じゃがといった出汁と醤油の効いた料理を、酒の甘みがやさしく包む。唐揚げのような揚げ物にも、酸が脂を流してくれるので合わせやすい。繊細な刺身よりは、味の付いた温かい料理と組ませたい酒だ。
突出した個性で勝負する銘柄ではないが、毎晩開けても財布が痛まず、料理の邪魔をしない。そういう「定位置」に置ける酒として、千福のこの一本は呉という土地の実直さをよく映していると思う。