

埼玉県比企郡小川町、武州小川の地酒蔵として知られる晴雲酒造の定番純米。和紙の里として名高い小川町の中心に蔵を構え、秩父山系から流れ込むミネラル豊富な仕込み水で醸す。グラスに注ぐとごく淡い山吹色で、派手さよりも端正さが先に立つ。手造りを掲げる蔵らしい、肩肘張らない佇まいの一本だと丸山は受け止めた。
香りは控えめで、立ち香に華やかな吟醸香はほとんど立たない。代わりに、口に含んでから鼻に抜ける軽やかな含み香が爽やかで、炊いた米や青草をうっすら思わせる。香りで主張するのではなく、料理の隣で静かに整える設計だと感じる。鼻先で探すより、ひと口含んでから個性を確かめるタイプの酒だ。
味わいは精米歩合65%の純米らしく、米の旨みが舌の中央にしっかり乗る。日本酒度+4・酸度1.7という数値どおり、甘辛のバランスはやや辛口に振れ、後口は酸に支えられてすっと締まる。冷やではキレが前に出て輪郭が締まり、常温に戻すと旨みがふくらむ。ぬる燗まで温めても香りが崩れず、むしろ米の甘旨が丸く開く。冷から燗まで温度帯の幅が広いのが、食中酒としての懐の深さにつながっている。
合わせる料理は、気取らない和の総菜が似合う。焼き魚や里芋の煮物、湯豆腐といった出汁の効いた家庭料理に、やや高めの酸が心地よく寄り添う。塩で食べる天ぷらのような淡い揚げ物にも、酸が脂を軽く流してくれて相性が良い。濃すぎる味付けより、出汁と素材を生かした料理に燗で添えるのが本領だ。
価格は720mlで1,400〜1,800円前後と、毎晩の晩酌に無理なく置ける価格帯。突出した香りや希少性を求める酒ではないが、小川町の風土と手造りの丁寧さが素直に出た食中純米の完成度は高い。一日の終わりにぬる燗で一合、という飲み方が最もよく似合う、実直な定番として推せる。