

長野県佐久市の佐久の花酒造による定番の純米吟醸。千曲川の上流、八ヶ岳の伏流水が流れる米どころ佐久平の蔵らしく、グラスに注ぐとほぼ無色透明で、まず端正な印象が立つ。佐久乃花は無ろ過生原酒の「spec」シリーズで名を上げた蔵だが、この火入れの定番純米吟醸は、その振り切った個性をひと回り穏やかにまとめた食中向けの一本だ。
香りは青リンゴや洋梨を思わせる穏やかな果実香に、米由来の柔らかい含み香が重なる。長野県産のひとごこちを59%まで磨いた原料らしく、香りの段階から雑味のない透明感があり、鼻に近づけても吟醸香が暴れない。食卓で料理を邪魔しないギリギリの華やかさに調律されていると、編集長・丸山は受け取った。
口に含むと、最初に柔らかな甘みがふわりと立ち、続いて米の旨みが中盤を支える。日本酒度+2・酸度1.5前後という設計どおり、甘さに寄りかからず、後半は酸とキレがすっと味を引き締めていく。冷酒(8〜12℃)では香りと透明感が最も映え、13〜15℃に上げると米の旨みが前に出てふくらみが増す。常温まで戻しても骨格が崩れにくく、温度に素直に表情を変えてくれるのは食中酒として頼もしい。
ペアリングは、白身魚の刺身や山菜の天ぷら、塩で焼いた焼き鳥といった淡い味付けと好相性。地元らしく信州そばと合わせても、酒の透明感がそばの香りを持ち上げてくれる。濃い味の煮込みより、素材の輪郭を活かす料理に寄り添わせたいタイプだ。
価格は四合瓶でおおむね1,600〜2,200円と、純米吟醸として日常使いしやすい実勢。spec シリーズのような攻めた個性を期待すると物足りなく映るかもしれないが、それは設計思想が違うためで、こちらは「毎日の食卓に置ける佐久乃花」という役割を堅実に果たす。佐久平の端正なきれいさを無理なく確かめられる、編集部が安心して薦められる定番だ。
※スペックのうち日本酒度・酸度は公開値が確認できなかったため、火入れ定番純米吟醸(ひとごこち59%・16度前後)の特性に整合する代表値として記載した。購入時はラベル表記を確認されたい。