

埼玉県加須市の釜屋は1748年創業の老舗蔵で、地酒「力士」の醸造元として知られる。この純米は、埼玉県産の五百万石と一般米を65%まで磨いて醸す、いわば蔵の日常を支える定番の純米酒。プレミアム路線とは一線を画す、毎日の晩酌に据えるための一本という顔つきで、編集部でも気張らず楽しめる酒として向き合った。
香りはごく控えめ。グラスに鼻を寄せても吟醸香のような華やかさはなく、米と麹の穏やかな含み香がうっすら立つ程度。香りで楽しませるのではなく、口に入れてからの旨みで勝負するタイプだと、注いだ段階で見当がつく。
一口含むと、しっかりとした米の旨みがまず広がり、日本酒度+4・酸度1.8の数値どおり、後半はきりっとした辛さで引き締まる。甘さは控えめで、骨格のある辛口寄りの味わい。65%精米らしい厚みと、わずかに残る米由来の素朴な味の幅があり、すっきり一辺倒ではなく飲みごたえが残る。雑味を抑えつつ旨みは削らない、実用的なバランスだ。
温度帯の懐が広いのも力士らしいところ。冷やではキレと辛さが立って爽快に、常温では米の旨みがふくらんで丸くなり、ぬる燗(40〜45℃)にすると旨みが一段と開いて辛さが和らぐ。一本で冷やから燗まで遊べるので、季節や料理に合わせて温度を動かしやすい。
ペアリングは、煮魚やもつ煮、豚の生姜焼き、おでんといった、味のしっかりした家庭料理や居酒屋の定番。辛口の骨格と米の旨みが、脂や甘辛い味付けを受け止める。720mlで1,300〜1,600円という手頃さを踏まえると、燗まで含めて気兼ねなく飲める常備酒として、埼玉の地酒を日常に取り入れたい人に勧めやすい。