
男山の「男山 純米」は、北海道旭川の名水で醸す北の地酒だ。江戸期に伊丹で生まれた「男山」の名跡を継ぎ、旭川で酒造りを続ける蔵で、大雪山系の伏流水を仕込み水に使う。1977年に日本酒として世界初のモンドセレクション金賞を受賞して以来、長く受賞を重ねてきた歴史を持つ蔵でもある。グラスに注ぐとほぼ無色に近い澄んだ色合いで、第一印象は「端正で素直」。北の食卓を支える地酒らしい、過不足のない佇まいがまず伝わってくる。
香りは穏やかで、炊いた米と軽い穀物香が中心。北海道産の酒造好適米「吟風」由来とおぼしき柔らかな米の香りが芯にあり、吟醸香のような華やかさで押すタイプではない。料理と並べたときに邪魔をしない、節度ある香り立ちが好印象だった。鼻に近づけても雑味やクセはなく、清潔な造りが感じられる。
味わいは、含むと米の旨みがまず舌に乗り、そこからやや辛口の設計どおりにキレが効いてきれいに引いていく。日本酒度+4らしいドライな締まりがありつつ、旨みの芯が残るので痩せた印象はない。甘辛で言えばやや辛口、淡麗から中庸の間に位置する飲み口だ。温度帯は冷酒(10〜12℃)で輪郭が締まり、ぬる燗(40℃前後)にすると米の旨みがふくらんで一段やわらかくなる。冷やでも燗でも崩れない安定感がこの酒の強みだ。
ペアリングは、刺身や焼き魚といった淡白な和食に素直に合い、鶏の塩焼きやおでんのような塩気のある家庭料理とも好相性。冬場は燗にして鍋や煮物と合わせると、土地の食事との一体感が出る。香りで楽しむより、食事を最後まで通して飲める食中酒としての性格が際立つ。
価格は720mlで1,500〜1,900円前後と、日常使いに手の届く実勢。希少性で驚かせる一本ではないが、旭川の名水蔵が守ってきた「やや辛口で燗の映える純米」という型を素直に味わえる。北の食卓に寄り添う実直な造りで、家に常備しておきたくなる安定の良酒だ。