

上川大雪酒造は、2017年に北海道上川町で「緑丘蔵」を立ち上げた新しい蔵で、いまや道内各地に拠点を広げている。この「十勝 純米」は、帯広畜産大学の構内に建てられた「碧雲蔵」で醸される一本で、十勝ブランドの味の土台を担う定番酒だ。グラスに注ぐとごく淡い色合いで、立ち上がる第一印象はとにかく素直。気取りのない、毎日の食卓に寄り添う酒という顔つきをしている。
香りは穏やかで、派手な吟醸香とは無縁。炊きたての米を思わせる柔らかい穀物の香りに、わずかに白い花のニュアンスが乗る程度で、料理の邪魔をしない控えめな立ち上がりだ。精米歩合70%らしく、香りで主張するのではなく、あくまで味わいの輪郭を支える役回りに徹している。
口に含むと、まず米の旨みとコクがしっかり乗り、その後すっと辛みが顔を出してキレていく。蔵自身が「辛口好きにはたまらない」と説明するとおり、後半の引きの速さが心地よい。日本酒度・酸度は蔵が公開していないため編集部の推定値だが、体感ではやや辛口寄りで、淡麗一辺倒ではなく旨みの厚みも残る中庸寄りの設計。温度帯の許容範囲が広く、冷酒(10℃前後)では旨みが締まり、ぬる燗まで上げると米のコクがふくらんで一段とふくよかになる。燗でこそ本領を発揮するタイプだ。
ペアリングは食中酒として懐が深い。白身魚の刺身や焼き魚といった淡い和食はもちろん、豚汁のような出汁と脂のある汁物、さらには北海道らしくジンギスカンのような濃いめの肉料理まで受け止める。キレがあるぶん脂をすっと流してくれるので、味の濃い料理と合わせても重たくならない。
価格は四合瓶で実勢1,300〜1,600円前後と、日常使いに迷わず手を伸ばせる帯。希少性や圧倒的な個性で勝負する銘柄ではないが、北海道の新世代蔵が掲げる「地元の食卓のための酒」という思想が素直に味わえる一本だ。燗にも冷やにも振れる使い勝手の良さで、常備しておきたい性格の純米酒として推せる。