

福島県二本松市の人気酒造が手がける「人気一(にんきいち)」は、2007年に独立創業した比較的新しい蔵ながら、二本松の地で着実に評価を積み上げてきたブランド。その定番に位置するのが、この純米吟醸「黒人気(くろにんき)」だ。和釜で蒸した米を手造りの麹で醸し、上槽後は瓶のまま半年ほど寝かせるという手間のかかった造りで、安定した味わいを目指している。
グラスから立つ香りは穏やかで、純米吟醸として香りで押すタイプではない。奥にほのかな果実のニュアンスが漂う程度で、むしろ熟成由来のまろやかさが前に出る。一口含むと、純米らしい幅のある旨みが広がり、日本酒度+3・酸度1.5の設計どおり、後半はすっと辛口寄りに引き締まる。アルコール度数15%とやや軽めに抑えてあるぶん、口当たりがやわらかく、盃が進む。
冷や(10〜13℃)で飲むと旨みと辛口のバランスが整い、ぬる燗(40℃前後)に振ると半年熟成の丸みがふくらんで燗映えする。冷やからぬる燗まで温度の許容範囲が広く、季節を問わず食卓に置きやすい。
ペアリングは和食全般。刺身、塩の焼き鳥、煮物、天ぷら。香りで料理を邪魔しないので、味付けの幅広い家庭料理に素直に寄り添う。
四合瓶でおおむね1,400〜1,900円と、純米吟醸としては手頃な価格帯。突出した個性で記憶に残るというより、毎日の晩酌で安心して開けられる「定番の純米吟醸」として位置づけたい一本だ。