

福島県田村市船引、年間二〜三百石ほどしか造らない小さな蔵が玄葉本店。「あぶくま」は派手さで勝負する酒ではなく、食卓の主役を一歩引いて支えるタイプで、編集部としても日常の食中酒という文脈で向き合ってみた。
山田錦を50%まで磨いた純米吟醸だが、香りは控えめ。グラスに鼻を寄せると、穏やかな米の香りと、ほのかに白い花のような吟醸香が立つ程度で、最初から飲み物としての設計だと分かる。日本酒度±0、酸度1.7という数字どおり、甘辛のどちらにも振り切らない中庸の味わい。
一口含むと、まず米の旨みがふくらみ、酸が後半をきりっと締めて、後味は重さを残さず引いていく。この「旨みが出てすっと消える」リズムが、料理の脂や塩気をいったんリセットしてくれるので、箸が止まらない。冷酒(10〜12℃)でも輪郭は十分だが、この酒の本領はぬる燗(40℃前後)にある。温度が上がると旨みと酸が一体化して、ぐっと懐の深い味に変わる。
ペアリングは、焼き魚を塩で、あるいは根菜の煮物やおでんといった、出汁と塩気のある和食全般。鶏の唐揚げのような揚げ物でも、酸が脂を流してくれるので相性が良い。逆に繊細すぎる先付けには酸がやや勝つ場面もある。
四合瓶で二千円前後と、毎晩の晩酌に置きやすい価格帯。香りで驚かせる一本ではないが、「料理と一緒に飲み続けて疲れない酒」を探している人にこそ薦めたい。燗もできる懐の広さを含めて、福島の食中酒の良さが詰まった銘柄。