

鍋島と聞くと華やかな純米大吟醸を思い浮かべる人が多いが、富久千代酒造の足腰を支えているのはこの特別純米酒だ。精米歩合55%、アルコール15度。純米大吟醸(35%)とは別の顔を持つ、毎日の食卓に置けるレギュラー酒である。
香りは控えめ。純米吟醸系のメロンや白桃を思わせる果実香とは違い、米由来の穏やかな含み香が中心になる。口に含むと軽快な旨みが広がり、日本酒度+2の通り後味はすっと切れる。淡麗辛口寄り(辛甘度+1、淡濃度-1)で、料理の邪魔をしない設計だ。
冷やしても燗にしても破綻しない懐の深さがある。冷酒では酸とキレが立ち、ぬる燗(40℃前後)にすると米の旨みがふくらむ。温度で表情を変えられるのは、香り重視の純米大吟醸にはない使い勝手の良さだ。
合わせる相手は日常の総菜でいい。焼き魚、冷奴、鶏の唐揚げ、おでん。佐賀の食卓に並ぶような家庭料理と肩を並べる酒で、特別な日のための一本というより、平日の晩酌で実力を発揮するタイプ。
価格は四合瓶で1,300〜1,600円前後と、純米大吟醸の半額以下。鍋島の名前で身構える必要はない。まず銘柄の基礎体力を知りたいなら、ここから入るのが理にかなっている。