

三千櫻は、もともと岐阜県中津川市にあった蔵が2020年に北海道・東川町へ移転して再出発した、全国的にも珍しい「公設民営」の酒蔵。その看板格にあたる定番純米が「R Class」で、北海道屈指の米どころ・東川の酒米を使った一本だ。グラスに注ぐと淡い山吹色で、いかにも食卓に馴染みそうな佇まい。最初の一口は驚くほど素直で、北の蔵らしいみずみずしさが舌の上をすっと通り抜けていく。
香りは控えめで、立ち上がるのは炊きたての米や淡い穀物を思わせる落ち着いたトーン。華やかな吟醸香を狙った酒ではなく、精米歩合65%という設計どおり、米の素性をそのまま静かに差し出してくる印象。冷やしてもほとんど香りが暴れず、料理の邪魔をしない方向にきちんと作られている。
味わいは、やさしい旨みと軽やかな甘みが先に来て、日本酒度+6・酸度1.7の数値が示すとおり、後半はやや辛口に締まってキレていく。北海道の酒米らしいクリアでミネラル感のある旨みが芯にあり、重さやクセはほとんど感じない。温度帯は冷酒(10〜13℃)でみずみずしさが映え、常温に近づくと米の旨みがふっくらと膨らむ。ぬる燗(40℃前後)にすると角が取れて旨みが厚みを増すので、一本で温度を変えながら楽しめるのも食中酒としての強み。
ペアリングは、白身魚の刺身や焼き魚、おでん、野菜の炊き合わせといった淡い味付けの和食に素直に寄り添う。出汁や塩の効いた料理と合わせると、酒のきれいな旨みが料理を後ろから支えてくれる。香りで主張しないぶん、毎日の食卓で「料理の隣にいてくれる酒」として使い勝手がいい。
価格は四合瓶で1,700円台が実勢で、北海道産米100%の純米酒としては手に取りやすい水準。派手さや希少性で勝負する銘柄ではないが、移転後の三千櫻が目指す「みずみずしくきれいな食中酒」という方向性が、この定番純米によく表れている。普段使いの一本を探している人に、編集部としてまず勧めたい入口の銘柄だ。