

諏訪湖のほとり、明治27年創業の舞姫酒造が霧ヶ峰高原の伏流水で醸す辛口純米吟醸。長野県産美山錦を59%まで磨き、低温発酵でじっくり旨みを引き出した一本だ。諏訪の杜氏が手がける酒らしく、華やかさより端正さで勝負してくる印象がグラスから伝わる。
香りは穏やかで、わずかに含む吟醸香の奥に米の落ち着いた気配がある。口に含むと、まず美山錦らしい硬めの旨みが舌に乗り、そこから一気にキレていく。辛口設計の名に恥じない、後半のシャープな切れ味がこの酒の主役だ。アルコール度数16%のしっかりした飲みごたえがありつつ、甘さを残さずスパッと終わるので、次の一口が欲しくなる。
冷酒では辛さとキレが際立ち、シャープな輪郭が前に出る。一方で人肌燗まで温度を上げると、美山錦の旨みがふくらみ、辛さの角が取れて丸い表情になる。辛口が苦手でなければ冷やで、料理を選ぶなら燗で、と二つの顔を使い分けられるのが面白い。
ペアリングは、味の濃いつまみと好相性。馬刺しやイカの塩辛のような旨みと塩気の強い肴に、酒のキレが見事に効く。諏訪湖名物のワカサギ天ぷらに合わせると、辛口が衣の油をすっと流してくれて軽やかに食べ進められた。豚の角煮のような甘辛い煮物にも負けない芯の強さがある。
四合瓶で二千円前後と、諏訪五蔵の地酒としては気軽に手が届く価格帯。派手な個性こそないが、辛口の食中酒として実直によくまとまっている。なお日本酒度・酸度は公表値が確認できなかったため、辛口設計と試飲の印象から推定値を置いている。諏訪の食卓酒を知る入り口として勧めたい。