

九頭龍は黒龍酒造のもう一つのブランド——「自由の扉をあける一杯」を掲げる日常の食中酒ラインだ。福井を流れる九頭竜川から名を取り、看板の黒龍が「永遠へつながる一献」のハレの酒なら、こちらはケの酒。その純米は、燗で本領を発揮する一本として根強い人気がある。
冷やでも飲めるが、この酒は温めてこそ。福井県産五百万石を65%精米し、日本酒度+5.5・酸度1.4・アルコール14.5度とやや低めに抑えた設計で、ぬる燗(40℃前後)〜上燗(45℃)に振ると米の旨みがふわりと開き、酸がそれを引き締める。冷たいときの軽快さから、温めると一転して優しい旨味が広がる——この温度での変化幅が九頭龍 純米の面白さだ。
黒龍の通年純吟が冷酒で映える透明感の酒なら、九頭龍 純米は燗で映える旨みの酒。同じ蔵が、ブランドを分けて飲用シーンまで描き分けているのがよくわかる。価格を抑え、度数も控えめにして、晩酌で何杯でも続けられるよう仕立てている点も対照的だ。
おでん、肉じゃが、焼き魚、鍋——湯気の立つ家庭料理に、ぬる燗の九頭龍を合わせると食卓が一気に和む。香りで主張せず、温度で寄り添うこの酒は、まさに「燗で良し」を地で行く。四合瓶1,400〜1,800円という価格も日常使いにちょうどいい。
ハレの黒龍を知っている人ほど、ケの九頭龍を一度試してほしい。同じ蔵の別の引き出し——燗酒としての実力が、この純米には詰まっている。