

南佐久・八ヶ岳西麓で千曲川の伏流水を使う黒澤酒造。2004年に立ち上げた昔ながらの生酛造りのブランド「黒澤」は、「料理の邪魔をしないが、味わいに広がりと奥行きがある酒」を掲げる。その純米吟醸 美山錦は、生酛シリーズの中でも輪郭のはっきりした上位ラインだ。
香りはおとなしく、吟醸香で押すタイプではない。代わりに、口に含むと生酛由来の厚みのある旨みと、しっかりした酸が前に出る。酸度2.0前後という数値の通り、味の輪郭がくっきりしていて、料理に負けない芯がある。日本酒度+2あたりで後口は引き締まり、甘ったるさは残らない。個性という点では、今回の長野5本の中でもっとも生酛の主張が強い一本だと感じた。
この酒は燗で本領を発揮する。ぬる燗から熱燗(45〜50℃)にかけて旨みと酸が一体になり、ふくらみと余韻が大きく伸びる。冷やでもシャープに飲めるが、温度を上げたときの化け方が魅力だ。寒い季節に常備しておきたいタイプで、食事と一緒に温度を変えながら長く付き合える。
ペアリングは、ぶり大根やすき焼き、鴨南蛮、味噌田楽など、味の濃い・甘辛い料理がよく合う。しっかりした酸が脂やタレを受け止め、口の中をリセットしてくれる。淡白な料理だと酒が前に出すぎるので、濃いめのおかずを合わせたい。
四合瓶で1,900〜2,200円前後。生酛らしい旨みと酸、そして燗での伸びを一本で味わえるコストパフォーマンスの高さが光る。クリアで華やかな酒を求める人には不向きだが、燗酒と食中の旨みを重視する飲み手には強く薦められる。