

小左衛門は、岐阜・瑞浪で元禄15年(1702年)から続く中島醸造の銘柄。蔵の足元に湧くミネラル豊富な地下水を生かした酒造りで知られる。その純米吟醸のなかでも蔵が得意とする長野県産・信濃美山錦を使った定番格を、編集部としてじっくり味わってみた。精米歩合55%まで磨いた一本で、グラスに注ぐとほぼ無色透明。立ち上がる香りの上品さから、香りと食事のバランスを丁寧に設計した酒だと分かる。
香りは、青リンゴや若い洋梨を思わせる穏やかで端正な吟醸香。派手に香らせるのではなく、料理に寄り添える範囲に抑えてあるのが好印象だ。美山錦らしい清涼感のあるトーンが鼻に抜け、グラスを傾けるたびに静かに開いていく。
味わいは、すっきりとした旨みと軽やかな甘みが先に立ち、日本酒度+3・酸度1.4の数値が示すとおり、後半はきれいに辛口寄りへ締まってキレていく。蔵の硬度のある仕込み水を思わせるミネラル感とシャープな酒質が芯にあり、余韻は澄んだまますっと引いていく。冷酒(8〜12℃)で香りと透明感が最も映え、温度が上がると旨みがふくらむが、この酒は冷たい状態をキープして飲むのが美しい。
ペアリングは、白身魚の刺身や鶏の塩焼き、塩で食べる天ぷら、山菜の天ぷらといった淡い味付けと相性が良い。香りと酒質がきれいなぶん、繊細な料理を引き立てつつ食事の邪魔をしない。出汁や塩の効いた和食に合わせると、酒の清涼感が料理を後ろから支えてくれる。
価格は四合瓶で1,500〜1,800円が実勢で、純米吟醸クラスとしては良心的な水準。希少性で値を張る銘柄ではないが、東濃の名水と美山錦が生む「上品で清らかな食中吟醸」という方向性が、この一本によく表れている。香りはほしいが食事の邪魔はされたくない、という人に編集部として勧めたい銘柄だ。