

辛口でキレる——という黒龍の一般的なイメージを、毎冬きれいに裏切ってくるのが「垂れ口」だ。搾り口(垂れ口)から滴る一番搾りをそのまま瓶詰めした本醸造の生原酒で、11〜12月だけの季節限定。同じ蔵とは思えないほど濃く、甘く、滑らかな顔を見せる。
日本酒度-7・アルコール18度・酸度1.6。数字だけ見ても他の黒龍とは別物だとわかる。火入れも加水もしない生原酒だから、口に含むと搾りたての炭酸由来のピチピチ感と、五百万石のふくよかな甘みが一気に押し寄せる。それでいて重さで終わらせず、最後に黒龍らしい締まりが顔を出す。この「濃いのに野暮ったくない」着地が職人技だ。
通年の純吟やいっちょらいが透明感とキレで語られるのに対し、垂れ口は旨みと甘み、そして度数の厚みで押す真逆のキャラクター。同じ五百万石でも精米歩合は65%とあえて低く磨き、米の旨みを残す設計にしている。蔵が温度や季節で表情を描き分けているのがよくわかる。
冷酒(8〜10℃)であん肝や白子、生牡蠣といった冬の濃厚な肴に合わせると、酒の甘みと旨みが脂を包み込む。度数が高いぶん、ロックや少量をじっくり、という飲み方も合う。四合瓶1,200〜1,500円とは思えない満足感がある。
毎年これが出ると福井の冬が来たと感じる人は多い。黒龍を「辛口の蔵」と決めつけている人にこそ、この季節限定の一本を飲んでほしい。蔵の振れ幅の広さを実感できる。