

冬の「垂れ口」が福井の寒に滴る濃醇な生原酒なら、その先の春を告げるのが「春しぼり」だ。搾りたての吟醸をそのまま原酒で瓶詰めした季節限定で、毎年2〜3月に登場する。同じ蔵の季節ものでも、冬の濃さとは違う、若々しく張りのある春の表情を見せてくれる。
福井県産五百万石を55%精米した吟醸原酒。日本酒度+5・酸度1.3・アルコール18度と、原酒らしいボリュームがある。香りはフレッシュな吟醸香が立ち、含むと搾りたての勢いそのままに、ピチッとした若さと米の旨みが弾ける。それでいて+5の辛口設計で、後半は黒龍らしくキレていく。新酒の荒々しさと蔵の品格が同居した、年に一度だけの味わいだ。
通年のいっちょらいが磨かれた静けさの吟醸なら、春しぼりは勢いの吟醸。同じ55%精米でも、加水して整えるか、原酒のまま勢いを残すかで、ここまで表情が変わる。冬の垂れ口(本醸造65%・甘口)と春しぼり(吟醸55%・辛口)を並べると、黒龍が季節ごとに設計思想を切り替えているのが手に取るようにわかる。
冷酒(8〜12℃)で、ホタルイカや山菜の天ぷら、菜の花といった春の苦味のある食材に合わせると、酒の若い張りが苦味を受け止めて爽やかにまとめてくれる。度数が高いので、最初の一杯としてキリッと飲むのがいい。四合瓶1,500〜1,800円の季節の贅沢だ。
季節限定の黒龍は、垂れ口と春しぼりの二枚看板。冬と春を飲み比べると、同じ蔵が季節をどう酒に翻訳しているかが見えてくる。春しぼりは、その「移ろい」を一杯で楽しめる一本だ。