

土佐山田から山あいに入った本山町、四国山地の懐に蔵を構えるのが土佐酒造だ。代表銘柄「桂月」のなかでも近年の顔になっているのが、高知県開発の酵母「CEL-24」を使ったこのシリーズ。辛口の土佐酒のなかにあって、あえて甘く華やかな方向へ振り切った異色の存在で、編集部としても県産酵母の個性をいちばん分かりやすく体感できる一本と位置づけている。
栓を開けた瞬間から、パイナップルやライチを思わせる強い果実香が立ち上がる。CEL-24酵母由来の高い酸とカプロン酸エチルの香りが特徴で、これが日本酒度-4の甘みと組み合わさることで、白ワインやリースリングを連想させる。日本酒に飲み慣れていない人ほど驚くタイプの香味設計だ。
口当たりは甘酸っぱく、ジューシー。精米歩合50%まで磨いた吟の夢のきれいな旨みが下支えしているので、甘さが重くならず、後半は酸でスッと切れていく。砂糖の甘さではなく完熟果実の甘さに近いので、食前酒やデザート寄りの一杯として開けると真価が出る。
ペアリングは和食の食中酒というより、フルーツやクリーム系の前菜、白身魚のカルパッチョなど、酸と甘みを受け止める軽やかな料理が合う。濃い味付けの煮物や燗向きのつまみと合わせると、せっかくの香りが喧嘩してしまうので避けたい。よく冷やした8〜10℃が最も美しい。
四合瓶で2千円台半ばと、純米大吟醸としては良心的だ。日本酒の幅広さを誰かに伝えたいとき、「これも日本酒なのか」と驚かせられる入門的な一本として手元に置いておきたい。