

「十四代」の中で唯一、本醸造でありながら蔵の看板を背負っている一本が本丸だ。「秘伝玉返し」の名は、添加するアルコールに自社で蒸留した米焼酎を使う独自の製法に由来する。純米信仰が強まった現代の日本酒シーンで、あえて本醸造を主力に置き続ける高木酒造の姿勢そのものを映した銘柄と言っていい。
口に含むと、本醸造とは思えないほど穏やかで丸い甘みが広がる。五百万石を55%まで磨き、香りは派手すぎず、米の輪郭がきれいに残る。中取り純米吟醸のような華やかさはないが、その分どっしりと中心に芯がある。後口は軽快に切れていき、何杯でも飲み進められるのがこの酒の身上だ。
同じ蔵の純米吟醸が「特別な日の主役」だとすれば、本丸は日常に寄り添う実力派という性格づけになる。冷やでも常温でも、ぬる燗でも崩れない懐の深さがあり、温度を上げると焼酎由来のふくらみがほのかに顔を出す。料理を選ばないのは、この素直な造りゆえだ。
合わせるなら、焼き鳥や天ぷら、肉じゃが、おでんといった家庭的な総菜が真価を発揮する。香りの主張が控えめなので、出汁や醤油の風味を邪魔しない。むしろ料理の脂やうまみを受け止めて、口の中をすっと整えてくれる。
定価は四合瓶で2,200円前後と、十四代としては破格の手頃さ。ところが入手難易度は他のラインと変わらず高く、市場では数倍のプレミアム価格がつくことも珍しくない。「本醸造でここまで飲ませるのか」と驚かされる、入門にして到達点のような一本だ。