

磯自慢の頂点に位置するのが、この中取り純米大吟醸35「アダージョ」だ。特A地区東条秋津の特上AAA山田錦を35%まで磨き、もろみの中央部「中取り」だけを瓶詰めし、さらに毎年ごく少量を低温でゆっくり熟成させる。蔵がその年の熟成具合を吟味し、ピークに達したと判断した酒だけに「アダージョ(ゆるやかに)」の名を与える。納得できなければ出荷を見送るという、徹底した一本だ。
香りは派手さで押さない。35%という極限まで磨いた米由来の、上品で奥行きのある吟醸香が静かに立ち、熟成由来のわずかな含み香が複雑さを添える。グラスの中で時間とともに表情が変わる。
含むと、絹のようになめらかな口当たりから、繊細な甘みと深い旨みがゆっくり広がる。日本酒度+4、酸度1.3。数値は中取り35の本流と共通だが、低温熟成を経たことで角がすべて取れ、輪郭が丸く溶け合っている。後半は磯自慢らしい透明なキレで、長い余韻が静かに引いていく。
ペアリングは究極の繊細さに寄せたい。白身の刺身、上質な握り、甘鯛の昆布締め、ふぐ。料理の輪郭を消さず、酒が静かに下支えする。冷酒8〜10℃、上質なワイングラスで一杯ずつ大切に。
定価16,500円、実勢では2万円を優に超える。磯自慢という蔵が「どこまで磨けるか」を示した到達点であり、私が日本酒の頂を語るとき必ず名を挙げる一本だ。